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29 僕は羊水の中、夢見る青いポリバケツ

ここはどこだと思う?
青いポリバケツの中だよ。
ゴミ箱の中さ。

でも、ただのゴミ箱じゃあないよ。
なんでも入ってしまう青いポリバケツなんだ。
ドラえもんの四次元ポケットみたいに。

どんなものでも捨てられる魔法のポリバケツ。
捨てても捨てても、蟒蛇のように何でも呑み込んでくれる、
至極便利な青いポリバケツです。
一家に一箱どうですか?
今ならお安くしておきますよ。

・いらなくなったお荷物
・身の程知らずの夢や希望
・どっかに沈めてしまいたいドラム缶
・望まないのに出来てしまったアレ
・溜まってく一方の放射性廃棄物
・知られずに膨れ上がる一方の予算
・見られたくないテストの答案
・昔書いた日記やポエム
・手に負えなくなった借金
・知らないフリをしておきたい歴史的事実
・気に入らないあの子やこの子
・面倒な責任問題
・隠滅してしまいたい証拠物
・無かったことにしておきたい、彼や此れの過去の選択
・幸せな記憶

欲しがる人は山ほどいるだろう。
要らないモノが降ってくる。
引っ切り無しにどこからともなく湧いては降る。
どれもこれも使えないゴミさ。
プロペラの付いていない扇風機。
明かりが勝手に小さくなったり、突然、煌々と灯り出す卓上ランプ。
猫の鳴き声のするグランドピアノ。
後ろ向きに進む自転車。
映像と音声が一致しないテレビ。
チョーモーシュの茶トラ。
ぬるい冷蔵庫。
-196℃の液体窒素が出てくるお風呂
どこか知らない星のラジオ番組の周波数を拾ってきてしまうラジカセ。
中には面白いゴミもあるけれど、概してどれもこれも下らない、取るに足りないただのゴミさ。

降りしきる雨塵(あまごみ)は容器を満たし発酵する。
押し込められ密閉された空気は、ゴム毬のように充満し、ふつふつとはち切れんばかり。
 。  。    。 。   。     。  。   。。      。 
 。卵が孵る。 。。 。 。。  。 。 。    。   。
。 。。卵が孵る  。  。 。  。。  。    。 。 。
。 。 。 。 。 。 。 。  。。 。 。 。  。  
   。      。 。     。    。
無数の卵が孵化する音が聞こえてくる。
鬼の卵か、醜悪な臭い。  。     。。
 。。 。   。  。 。 。 。 。  。   。 。 
 。 。 。 。 。  。  。 。。 。   。
。  。 。 。   。  。 。   。 。。
。  。   。  。 。    。  。  
  。 。   。 。   。  。
     。      。       。
         。       
僕は壮大な宇宙の終わりが見たい。
「この世の地獄は美しい」         。
旅行のパンフレットにそう書いてあったよ。
   。
。     。
     。   。      。  。

  。        。

    。
                 。                。

  。
               。
                    。

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テーマ : オリジナル小説    ジャンル : 小説・文学
 2016_12_15



白百合雨の降る頃に、夏の終わりの夕方が濡れている。
お花で作った花冠、あの子にナイショで埋めました。
樒の木の下の暗い穴、私が掘って埋めました。
シロツメクサの光の環、私が編んで埋めました。

いつの間にか、かさかさ乾いて干し草になった花かんむり。
大事に部屋の壁に掛けておいたけど、ポロポロ落ちて、かさこそこそ。
ばらばら花びら零れます。
白くてきれいだったはずの花冠は、茶色くなって汚いな。
粉粉小さな虫のフン。
見えない虫がいるのかな。

この生き物はなんだろう?

みんな死ねばいいのに。
いっぱい死んでもまた産まれてふえてくる。
女の人は子供なんて産まなければいいのに。
早く私も死んじゃえばいいのに。
おばあちゃんも死にたいって言ってたよ。


嵐が来る前に、嵐が来る前に。

白百合雨が降っている、夏の終わりの夕暮れに、
シロツメクサの冠を頭にかぶって濡れました。
暗くなった夜の裏庭、緑のスコップ手に持ち、草ふみしめ、かき分けて。
奥の隅にいるシキミの木。私が植えた樒の木。
あの子にナイショで、クローバーの花輪のお葬式をしました。

お花は腐っちゃったから、死番虫が食べてるよ。
かわいそうな花かんむり。
お墓の中では、死番虫がいつも一緒にいてくれるよ。
きっと、色んないい夢見ているよ。
あの日の思い出見ているよ。
ニワゼキショウも咲いてるよ。
樒がシロツメクサと死番虫の夢を根っこから吸ってるよ。
夢を食べて大きくなる。
だから、夜に樒は成長する。
根っこが伸びて夢を吸う。
いつか大きく育ったら、月の色した花が咲いて実が生ります。
おいしそうな星の形をしたシキミの実。
夢を吸ったから星の形をしているのかな?
種がはじけて笑ってる。
あの日の思い出つまってる。

夏の雨がしとしと降る夜に、虫の亡き声泣いています。

早く終わりにならないかなあ。
終わらない、終わらない……。

全部消えて無くなればいい。
あの子と手をつないで歩いた帰り道。
青白くかすむ砂浜、ニワゼキショウの星花海。





────────────────────────────────
シキミ(樒、櫁、梻) 学名:Illicium anisatum)

マツブサ科 シキミ属 (分類法によっては、シキミ科ともする)

常緑高木 陰性植物(日陰が好き)

シキミの語源は、「悪しき実」が転訛したものだとか……。
他にも、「四季芽」 季節を問わずに新しい葉が芽吹くから
「敷き実」 種の形が平べったいから、など、諸説あります。

学名の Illicium(イリキウム)は、
ラテン語の illicere(魅力のある、魅了する、誘惑する)、
illicio(引き寄せる)に由来する。

花や実、葉、茎、根の全てに強い毒があります。
特に、種は猛毒で、下痢、嘔吐、痙攣、意識障害を引き起こし、
死亡することもあります。

毒性分:アニサチン

シキミの実は植物としては唯一、毒物及び劇物取締法により劇物に指定
(毒物及び劇物指定令(昭和40年政令第2号)第2条第1項第39号「しきみの実」)されている。

近縁種の、唐シキミ(中華料理の香辛料の八角、スターアニス)と形がよく似ているため、
誤って食べてしまうことがあるようです。

シキミから初めて単離することに成功した
「シキミ酸 shkimic acid 」という化合物は、
植物や微生物が、アミノ酸を形成するのに
非常に重要な役割を果たすそうです。

インフルエンザ治療薬「タミフル」の原材料としても利用されています。

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 2016_08_30




『とんと一つあったてんがな。
あるどこに、静かな静かなガラクタの砂漠、どこまでも広がる同じ景色の中に、ポツンと一つ遊園地があったてんがな。
ガラクタ山の遊園地。奇妙な形の遊園地。
妖精が住むという……そんなこともあるやもしれない、誰もいない遊園地。
ガラクタ遊園地は、アトラクションなのか観測器具なのか見分けのつかないヘンテコリンな機械達を動かして、今日も世界の 何かを見ていた。
最近、長い間大きな変化が無かったガラクタの砂漠に、少しづつ変化が起きてきた。
妖精遊園地は大そう面白がって、ガラクタ砂漠で起きるどんな些細な現象をも見逃すまいと思うて、観測装置をフル活動させて見ておったてんがな。…………』




空から降るものがある。
微かに光る小さな小さなガラクタの欠片。
爆発で飛び散った瓦礫の残骸か、何かの燃えカスの灰に似ている。
遠目からは、ひいらりと落ちてくる雪の一片のようにガラクタの砂漠に舞い降りていた。

砂漠の表面に浮き上がる黒いコールタールの目玉の水たまりが、暗いだけの空を凝視しする。
ガラクタ砂漠に痣痕のような斑点が、後から後から無数に増え広がり、急速に大きくなっていっているようだ。

ドロリと黒い液体の中でシストが発芽し始めていた。
黒目玉の核として、それぞれの水たまりに一つづつ納まっているシストは、植物の種のように外部の環境が成長に適した状態になるのを休眠状態のまま待っていたのだ。そして今、目覚めの時が来た。
シストは環境が良くなると一斉に孵り、成長し、成体となって生活するが、悪環境に置かれるとシストという丈夫な鎧のような卵を出来るだけ多く殖やし、やがて自分は力尽きてゆく、というサイクルを繰り返していた。

シストから孵ったガラクタ細胞は、周りにある黒い液体を吸収して細胞分裂をしていった。ウイルスのように細胞が増殖してゆく。しばらくすると、黒い目玉が微振動を起こし始めた。すると、細胞分裂をしながら、ガラクタ細胞どうしが繋がり合っていき、結晶化が起き始めた。
結晶は、規則的に他のガラクタ細胞と結びつくことを繰り返して大きくなっていった。
途中で結晶同士がぶつかり、くっつき合い大きな塊になってゆく。
何度も何度も同じことを繰り返して成長し、途中で枝分かれを始めると珊瑚のような形になっていった。
太い主幹が出来てくると今度は横方向へと成長していき、テーブルサンゴのように丸みのある襞を広げる。
砂漠中の黒い目玉から珊瑚の襞が大きく成長していき、お互いに覆いかぶさる姿は、ゼニゴケにも似ていた。

ガラクタテーブルサンゴは、よく見ると極微小な泡状の物質を無数に吐き出している。
泡はゆらゆらと揺れて、空気中へと漂うように拡散してゆく。
この泡はあまりにも微小で、しかも、光の屈折率がこの星の大気と同等な極めて透明な物質でできているため、泡は空気と見分けがつかなった。
見えない泡は、とても細い繊維が綿飴のように絡み合った構造をしていて、繊維と繊維の隙間が大きく空いているため光が通り抜けられる。
透明繊維の泡が空までいっぱいに満たされていった。
長い時間をかけて泡が吐き出し続けられて溜まると、水圧のようなものがかかり大気は重くなり、水中と近い感覚を感じる。

ガラクタテーブルサンゴが生えている砂漠の中から小さなアメーバ状の幼蟲が至る所から発生し、うぞうぞとサンゴを這い回って移動している。そして、サンゴの末端まで辿り着くと食べ始めた。
最初はみな同じように見えたアメーバ状の蛆虫の樣だったものが、だんだんと大きくなるにしたがって、様々な種類の生き物たちであったことが区別できるようになってきた。

ガラクタ珊瑚を食べて成長した幼蟲は、貪り食べるのに飽きると、今度はサンゴの内部へと穴を齧り開けて潜り込んでいった。
幼蟲が入り込んだ所は次第に異物を抱え込み、植物に寄生する虫が作り出す虫こぶのように大きくなってきた。
ポッペンのような球体ガラスが、ガラクタサンゴにいくつもいくつも膨れてくる。
透明なガラス膜に覆われた虫こぶ内部には、何匹もの虫たちが入り込み、眩暈のする色模様で蠢いていた。

「色取り取りのビーズのガラス瓶みたいで綺麗だなあ……」と妖精遊園地がつぶやいた。

成長し終わったものは、糸を吐き出して繭を作り出すことに取り掛かり始めた。
繊維が繰り返し張り巡らされ、網状に纏まることで面が出来ていく様は見ていて飽きない。
ガラス虫こぶの中にたくさんの繭が、所狭しと卵型カプセルベッドを並べているのを覗き込むと、ギュウギュウに詰め込まれた花火玉の中身の、「星」と呼ばれる丸い火薬を思い出す。
ガラクタ蟲は、外から隔てられて安心して蛹化するための、糸で作った結界という個室の中に籠り、じっと動かなくなった。
ねぶっておるのか死んでおるのか……。
ほうして、皮膚が鎧のように固くなって蛹へと変化した後、体中が目も鼻も、耳も口も、手も足も、全部ドロドロに溶けてしまうことなんて露も知らずに、ガラクタ蟲は繭の中で眠りこけておったてんがな。

「これで、いちやポンとさけた。」




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テーマ : オリジナル小説    ジャンル : 小説・文学
 2016_07_09




時が降る、時が降る
時の欠片は砕けて降り積る

時が震える、時が震える
時の粒子が海になる

海は震え泣き、遠く儚い歌を歌う
誰も知らない歌を歌う

夢を見る。海は遠く知らない夢を見る
いつまでも、いつまでも
誰も知らない夢を見る

海と夢は混ざって溶ける
波の模様は琴の線
夢の流れに微睡む夢見の水花
コロイド遊んで蕾が微笑う

コットン カッタン 水車が回る

震える繊維が伝播する
絡まる粒子に記憶を乗せて
あなた(私)と、私をつなぐ撚糸は
時を旅して紡がれる
さ迷う思いに触根を伸ばし
          エレイジュ
コットン カッタン 匯零樹 回る







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テーマ : オリジナル小説    ジャンル : 小説・文学
 2016_07_09



この世界のどこにいるのだろうか。


いない
     いない

        いない    いない

   いない
         いない


            いない
  いない


                      いない

           いない





        どこにもいない




                           いない


波間にもまれて漂う青い小瓶。遠く知らない世界へと手紙を運ぶ。
読み人知らず。宛先のない手紙は、行方も知らぬ彼方を目指す。
青い容器に詰められた想いは揺れて、嵐に呑まれて海の深くへと沈んで落ちる。
誰も知らない暗い底、沈んだ手紙は夢を見ながら眠っている。海底に胎児のように丸くうずまる夢見る小瓶。

未だ知らない君を探している。だから、私は観測装置遊園地になる。
ガラクタ山には、色々な形の顕微鏡と望遠鏡を夥しく作り続ける。
特に、電波干渉計はいくつあっても足りやしない。パラボナンテナは雨後の木野子みたいに勝手に殖えてくれれば在り難い。

増改築に実験改良を繰り返し、光学望遠鏡に光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、レントゲン、磁気共鳴断層撮影装置、開口レーダー、ありとあらゆる探査機具を無駄に取り付ける。
私は沈没船だ、ソナーも勿論搭載済み。

クマムシほどの小さな物から、大きな物は新国立体育館ほどのサイズと、規模も構造の種類も趣向を凝らして、同タイプの機具でも各装置ごとに工夫している。
なぜ、一つ一つ違う物を建てるかって? 面白いからに決まっているじゃないか。退屈よりは楽しい方がいい。
非効率と無駄の中にこそロマンティシズムが発生するということを、この身を持って実証するのも悪くはない。

遠い遠い海の空から降ってくる、微かな光の周波にパラボナアンテナを澄ましていると、時々、山全体が震えるような音が聞こえる。
山を構成するガラクタの隅々にまで響く身震いは、なぜか知っているような知らないような、そんな不思議な感覚を思い起こさせては、そ知らぬ振りをして通り過ぎて行く。

海に蠢く無数のガラクタ生物に目を凝らし、大小様々な生物同士の関係を見ていると、一体、世界のどこに自分が居るのか分からなくなってくる。そもそも、ここがどこかなんて知らないけれど。

過去なのか、未来なのか、現在なのか、この世界なのかさえも分からない。あまりにも途方もない宇宙の海へと潜水する。
不規則に、示す方角をころころと替える羅針盤を一応の頼りに、当てずっぽうに右往左往、気紛れな軌道は、頭を傾げて ゆるやかに円弧を描く。
遠目からは出鱈目に踊っているかのように見えるだろう。

水圧が酷く重い暗い海の闇に、同心円の波が軽やかにリズムを伝える。潜水艦のソナーの音が拡散し、反射する。
この世界に散らばる君の痕跡を求めて。微かな息吹を手繰り寄せ、感知したい。
認知の限り、私は君の命を探している。

ガラクタ遊園地で出来た海賊船に乗って、どこまでも果てしない、この深海を探査しよう。何度だって。
時の残骸の海が、歌い続けるのを仕舞いにするまで、メリーゴーランドは波打つ螺旋の花弁を空間に浮かべ、渦巻くことをやめない。
鱗粉きらめく円舞を繰り返す。

私は宇宙探査船になって、飛んでゆく――。




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テーマ : オリジナル小説    ジャンル : 小説・文学
 2016_05_07




『青い泉が呼んでいる』

澄んだ水に身を沈めれば、透明度の高い液体に満たされた風景に溶け落ちる。
地中深くを巡り石と砂に濾過された涌水の泉は、どこまで潜っても明るく光が降り注ぎ、見上げると揺れる青が空のように広がる。
水底の白砂には、水面の波模様を滑らす光の幾何の精が戯れている。
光線は交叉し、絶えず伸縮する光の流線形は、眠気を惹き起こさせる光沢を放っている。
水の湧く音に真珠色の霰石は可笑しげに撥ね上がり、小さな気胞が蜉蝣のように浮揚する。

碗を描く泉はなだらかに深くなっていき、中心にはぽっかりと、底抜けの群青の縦穴が覗いていた。
岩壁の穴には、石質の段差がぐるりと二重に螺旋を渦巻いてセノーテのような底知れぬ深さが穿たれている。
絡み合う様に円を描いて落ちてゆく二つの階段は、岩石の節理によって自然に作られた造形なのか、何者かの作為によって築きあげられた構造なのかは知れない。所々、歪に崩れている段差は、泉の奥深くへと、心地よいリズムで一つ一つと落ちてゆく。
カルデラ湖のように切り立つ深さの断崖は、水穴の狭窄した内部へと眠るように誘う。
淵に沿って階段が瑠璃色の静寂を水に沈め、石質の撥条を果てもなく捩じ巻き続け、下へ潜るほどに青の陰翳を増していった。

吹き抜ける風に葉の擦れる音がさざめいた瞬間、梢から薄緑色の羽虫がポトリと落ちた。
青翅羽衣(アオバハゴロモ)が水鏡へと映り、澄まし顔で自分を覗き込む。風に震える翅は何事かを囁いている。




『鏡映しの僕の夢』

僕は、青条揚羽蝶(アオスジアゲハ)が何羽も群れているのを見たことがある。
あれは夏の暑い日だった。鉄柵で囲まれた貯め池の敷地内、人工池へと向かう階段を降りたコンクリートの上に、ジュースか何かの液体が零れた跡が滲みていた。
今にも干乾びそうな小さな水たまりは、容赦ない陽射しに照らされ、わずかな湿り気さえをも蒸発させようと熱風はしきりに煽っている。

夏の白い時間、水の光りの点滅が目の奥にまで鋭く閃く映像。そこに青翠色の翅をはためかせながら、細い管を伸ばして液体を吸う蝶の群れが網膜に瞬く。淡青緑色の鱗翅の焼け付く残像が、ちらついて離れない。
今にも消え入りそうな、微かな翅の揺れに燈る碧い火焔に魅せられる。
薄緑青の陽炎の手招きが僕を呼んでいる。

僕はどうしようもなく捕獲したいという衝動にかられ、捕虫網を取りに家へ向かった。
急いで網を持って戻って来た所で、夢はもう二度と見ることは叶わなかった。
青条揚羽の姿はどこにも無く、灰色のコンクリートの舗装路に僅かばかりの滲み跡を残し、ひらり風切り消え去った。
肩に掛けた虫かごの格子からは、空白の蝶の群れの羽擦れの囁きが、覚めた夏の夢を未だにヒソヒソと漏らしている。





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 2016_04_10



白い結晶の針葉樹は凍え、雪の草々は輝く星の光矢を放ち、キルンキルンと鳴っていた。

雲のまにまに手繰る糸。
葡萄の蔦這う雲の網空を、光の珠が転げ回り水晶の火花を散らす。
手を伸ばし絡み合う雲の糸巻きひげ蔓を、透明な過冷却の樹液が昇りゆく。
滴る雫の連なる音は、白い睡蓮の香りを咲かせている。
綾織る芳香物質は、六花の香りを象って、純白の環を冠る。
空の果てから咲き零れるものたちの溶融に、春の夢は朧に微睡む。



僕は春が来るのを待っている。
雪融けの水が、白い花を咲かせる季節を。
絹糸よりも細い維管束の路を通り、花弁の先まで陽光に透けて銀の燈りが流れる、あの瞬間を。

水の波紋を揺らす、冷ややかな鈴音が響いている。
鏡映しの空の色は、遠く儚い面影を滲ませては、波打ち際に戯れに描いた砂絵のように消える。
ゆるやかに明滅し移ろう水鏡の景色に、水仙の甘い匂いが微かに溶けて流れる、幻の泡の影。
水はあらゆるものを溶かし込んで流れ去り、行きつく果てで海となる。
僕は、青い湧水に溶けた白い花の香りの記憶を頼りに遡江する。

柔らかな緑の孔雀羊歯に覆われた小さな窪地には、青磁色の光と影がたちこめ、白い石英の砂利は清澄な湧き水に洗われ、まあるく碗を描く。
水涯に手鞠群れ咲く桜草は、花びらの端に微笑みを滲ませ、柑橘の香りがそよ風の舟に乗り旅をする。小さな鍵は、花虫だけが知っている早春の秘蜜を隠している。
はらり はらりと薄藍の水面に、淡い紅の花びら浮かんでは、表面張力の戯れによって互いに引き合い群れ漂う。白い線を棚引かせ、どこへともなく移ろいゆく。

綾織る模様は、記憶の回線。
幾重にも紡がれた網目の紋様は、記憶の回路。
機織る音は、次元を超えて震える蜉蝣。
空間を飛翔する粒子の光は、渦巻きゆらいで変換される。

リンリンリン、複回線のベルが鳴る。
鈴を銜えた片羽の鳥が飛ぶ。
紡ぐ糸を手繰り寄せ、落ちた花より生った果実。

水車が回る、水車が回る。
コットン、カッタン、絵巻が棚引く。
霞みがかる霧の向こう、遠く響く、水琴窟のか細い水車の共鳴音。
右に回って左へ回り、テンプの往復運動は回転するたび、キンキンキンキン甲高い微かな金属音をもらす。
歯車回れば溶融変成される時の糸。綾織り、機織り、錦織り。
オルゴール人形達が動き出し、幾度も幾度も物語が編纂再生、上演される。

僕は、青い幽邃(ゆうすい)に溶けた白い花の香りの記憶を頼りに遡行する。
暗渠の闇色に染まり行く森の谷底、渦巻く蜷局(とぐろ)跳ね、夜が泳ぐ濁流を蹴散らし、駆け抜けろ。
轟く渓谷の切り立つ岩場の奥深く、源流へと突き進め。
いつか君と出会うだろう。
あの約束の泉で。



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 2016_02_25



リン リン リン リリン、リンティンクルリン
リンクリン、リンクリン、リリン リリン リリン
リリンクリン、リリンクリン、リンクリリンクリン


珪酸質の鐘が鳴る。
君のことをたまには、ロリカと呼ぶことにしよう。
透明な膜質の殻は、水晶の鐘。玻璃の壺の襟から長い鞭毛を揺らめかせ、可愛らしい音を響かせる。
名前なんて本当はどうでもいいし、君に名前なんて有っても無くても同じことだけど。
君は常に姿形を変えて千変万化の形態で僕の前に現れるし、そもそも同一の存在なのかさえも定かでは無いときたら、一つの名前で呼ぶ方がおかしい気がしてくる。
「ロリカ」
呼びかけた時の響きが素敵じゃないか。
だから、取りあえずそんな風に呼んでみよう。明日には気が変わって、別の名前で呼びたくなるかもしれないけど。

僕は使い古した青いポリバケツの中に蹲り、今宵、春の夢を見る。
うんざりするほどに延々と続いてきた太古の物語から譲り受けた夢の系譜は、よく厭きもせずに調べを奏で、僕は束の間夢を見る。口を呆けた魚のようにあんぐりと、魯鈍のように目は空ろ。
目玉から零れた水晶体は干乾びてきって掌に転がっている。
罅の入った球体は、青い蝶の幻燈を映す。

今朝、苔生したバケツの中でウトウトとしていると、蓋の隙間から、いつか聞いたことのある唱歌がもれ込んできた。
ゆっくりと近づいて来ては、また聞こえなくなっていった古惚けた鐘の二重奏は、遠く遥かな故郷の川を歌っていた。
僕は無性に憧憬を感じた。失われた過去は美しい。
鮭は、卵が孵化したその清流の匂いを感じた時、懐かしさを感じるだろうか?
産まれた川へと遡江するうちに、どうしようもなく掻き立てられる郷愁に浸るだろうか?

鏡映しの宵の夢、春眠暁を覚えず。
僕は春の夢のために、眩しいばっかりの暁をポリバケツの底に埋めよう。不法占拠して僕の占有領地を陣取っている微生物達が、いい塩梅に発酵してくれて、そのうちふかふかの肥料になる。
全ては夢のまにまに。
僕は夢に溺れている魚の末裔。
思う存分、眠り呆ける。




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テーマ : オリジナル小説    ジャンル : 小説・文学
 2016_02_21




「ジングルベール ジングルベール 鈴が鳴る……」

目の前にクリスマスツリーが生えてきた。
だって、今日はモミの木とサンタクロースの日だから。

街が蠢くように積み重なり、もみくちゃになってくっ付きあっているクリスマスツリーは、天高く聳え立つ。
一体どんな糊を使えばこんな風に接着することが出来るのだろうか。
グニャリとひしゃげた鉄筋コンクリートの建物がゴミのように堆く積もり、ラーメン構造の堅牢さを誇らしげにしている。
外壁が剥がれ落ちたトラス構造の鉄筋は、優美な網の目で梢を広げる。
蠢く血管がドクドクと生長しながら、街のツリーをのたくい這い回り、キラキラ腸は歓声を上げてツリーを彩る。
心臓の赤いポンプが鮮やかに鼓動を打ち鳴らす。
脳のオーナメントは煌びやかにツリーにぶら下り、鈴生りだ。プルプルと笑っている。

君の心臓はどれだろう。耳を澄ましてみる。
君の脳はどれだろう。探し当てたのなら、君の脳へ虹色に輝く吊橋を架けるのにな。

常盤の針葉街樹は、どこまでも高みを目指して宙をも突き抜ける。
小さな白い飛行機が翼を広げてツリーの周りを飛び交う。
緑なす木々の群れ、打ち上がるロケット、軌道エレベーターが手品のようにフワフワと浮いている。
宇宙中の恒星、惑星のカラフルなボールを散りばめて、とびっきりカラフルに。なんたって、今日はクリスマスだから。仕上げにポリエステルの星雲をふんわりね。
止めに閃輝暗点のクラッカーが火薬の匂いを撒き散らし、目も開けられないくらいに眩しい。
あのビルツリーのどこかには鼠の王国があるらしい。のっぴきならぬは税制徴収。独立国家だ内紛騒ぎ。
鼠が街を齧り屑が落ちる。骸骨もぽとりぽとりと落ちてくる。それを海鼠が食べて白い砂となる。ツリーの下は白い砂浜がどこまでも広がっている。
波打ち際で珊瑚の欠片を拾った。珊瑚が作る石灰質の層は、一日一層ずつ増えて行く。このツリーも毎日毎日増えて、少しずつ大きくなっていくんだろう。

ツリーの足元にはプレゼント。
どれでも好きなのをお一つどうぞ。サンタさんからの贈り物だよ。
クリスマスケーキの入ったイチゴ模様の可愛い箱。子犬が包まれたゲージ。
きれいな包装用紙にくるまれてラッピングされた放射性廃棄物の箱。どれも素敵にくるくるのリボンが揺れている。
なんでも買える魔法の紙が入った箱が一番人気らしいね。

蟒蛇がクラッカーを呑み、象が誇大妄想の夢を吐く。
いつの間にか膝の上にやって来た猫は、熊と一緒にクリスマスツリーを眺めている。
毛並みのきれいな猫。青翠色の瞳がとってもきれいなんだ。

「きよし このよる……」

クリスマスツリーには、キラッキラのお星様がなくっちゃあね。
後は天頂に星が頂くのを待っている。
みんなみんな空を見上げて、緑の街樹の上で待っている。
金色の星が降ってくるのを待っている。




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 2015_12_24



ピクニックへ行こう。
待ち合わせは、秘密の森。

バスケットには、好きなものも、どうでもいいもの、嫌いなものも全部詰め込んで。
お客様はくまのヌイグルミに、案山子とブリキのロボット。
それから、セルロイドのお人形に、撥条仕掛けのネズミの親子。
おくれて藁人形も五寸釘しょってやって来た。

みんな揃って乾杯しましょ。
わたしは赤いおべべに藤の花かんざし。
白化粧にお口にちょっと紅を差す。
だれも見てない舞を舞う。

あなたはこない あなたはこない。
だってここは、秘密の森。
誰も知らない迷いの森。




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テーマ :    ジャンル : 小説・文学
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草灯籠

Author:草灯籠
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